ウーマンエンパワー協会では、さまざまな企業の取り組みを取材しています。
今回は、働き方と保育の質が問われている保育業界に風穴を開けて採用力向上につなげている社会福祉法人風の森の統括/野上氏にお話を伺いました。
<企業概要>社会福祉法人風の森(東京都杉並区)
設立:2013年
従業員数:210名(約9割が保育士)
事業内容:幼児教育にこだわった保育園/Picoナーサリの運営(病児保育・児童発達保育を含めて8園)
Q. 保育園Picoナーサリは、70年の長い歴史を持つ幼稚園が立ち上げたということですが、創業の経緯はどんな形だったのでしょうか?
元々私は日本総研のコンサルタント、営業を経て、マイナビの新規事業立ち上げという採用畑にいました。妊娠を機に運営に携わった幼稚園にて、預かり保育やアフタースクールを運営するなかで働く保護者が増えている実感がありました。自身も働きながら子育てしているなかでより子育て支援に繋がればと、幼稚園の理事長でもあった夫の父と社会福祉法人風の森を立ち上げ運営を始めました。
現在、東京・杉並区に保育園6園と病児保育・発達支援の2園を運営しています。
Q. 保育士は残業が多くて自分自身が出産すると継続しづらい仕事というイメージが強い業界ですが、どのような取り組みをされているんでしょうか?
保育士は色々な事に忙殺されるのではなく、子どもにしっかり向き合える環境が大事で、それが保育の質に直結します。
そこで、国の人員配置基準の2倍の保育士を配置しています。
その体制で残業や持ち帰りはなし、勤務中の休憩やお休みもしっかりとれるという仕組みにしてあらゆる世代が働けるようにしています。前の園で子育てと仕事が両立できなかったという人が転職してくる例も多いです。
また、出産後の保育士のシフトの組み込みは工夫しています。
どうしても保育士自身も子どもを園に預けないといけないとなると朝と夕方に働くことが厳しい。ただ朝と夕方以降を省いた真ん中の時間のシフトの固定となると保護者とコミュニケーションが全くとれず保育補助となってしまいキャリアもマミートラックに入ってしまいます。それを打破するために、朝8時~夕方6時の間のシフトで、保護者と会ってコミュニケーションがとれるシフトに入ってもらうようにしたことで、子育て支援をしっかり行い、自身のキャリアを構築できる仕組みを作りました。
子育て中でない職員に負担が偏り過ぎないように朝と夕方だけ担当してくれる短時間パートさんも採用しています。
職員自身の小1の壁の対策として、時短でできなくとも朝と夕方のシフト免除を継続することは令和4年度から可能にしています。
様々な整備を通して、現在は残業0、有給取得率93%、産育休取得率100%を達成しています。

Q. 認可保育園は料金が同じなかで人件費はどのように確保しているのでしょうか?
これは自治体によると思いますが、東京都の補助事業を積極的に行っていますので、そこをうまく活用して人件費にあてています。保育園は自治体の委託事業となるため、国、都、区に対して処遇改善に対する要望も常に伝え続けていますね。
Q. 取り組み前後で採用の反応が大きく変わったということですが?
働き方改革は2014年から、限定シフトは令和3年度から実施していますが、前後で反応は全然違いました。新卒は各園毎年1名ずつくらい採用していますが、中途採用においては倍率14倍です。この業界は保育士1人を3法人が取り合うと言われているなかで、保育士確保に大きな効果がありました。
Q. 働きやすさだけでなく働きがいとのバランスを重視しているというのはどのような取り組みになるんでしょうか?
私たちは、単に働きやすいだけではなく、働きがいのある職場を目指しています。
やはり保育士は学び続けることで保育力やスキルが上がります。職員同士の語り合いやグループワーク、マネジメント研修、子ども1人1人についての話し合いなどはしっかり行うようにしています。
保育はどうしても評価しづらく保育園の中はブラックボックスになりがちですが、その子が今何をしたいのかしっかりみて、どういう環境やサポートをすれば成長できるのか職員同士で真剣に考える時間をとることでやりがいと保育の質を上げたいと考えています。
その他にも保育士が着たい!と思える制服をつくったり、職員がしっかり休めるカフェのような休憩室スペースを設けたりしています。
心身の健康のためにヨガをやるなど社内交流も時々やっていますね。先日はみんなで劇団四季をみにいきました。

Q. 働き方や両立を理由にマネジメントを拒否する方はあまりいなそうですね。
そうですね。子どもたちの現場から離れたくないから、という理由でマネジメントに後ろ向きな方はいますが、お願いすると意外と皆さんがんばります、と期待に応えてくださいます。
男女関係なく役職をアサインしていますが、現在各園の園長主任はすべて女性です。
子育てをしながら園長業務を行っている職員が過半数を占めており、サポート体制も整えています。
Q. 経営において大事にしていることや推進のポイントは何だと感じますか?
女性の多い職場なので一般企業と少し違う点もあるでしょうが、女性はとても優秀です。ですのでライフステージでキャリアをあきらめざるを得ないというのは勿体ないので、女性が長く継続して働ける企業こそサステナブルな企業です。
うちも何か特別な施策を行っているわけではありません。着実にやれるべきことを積み重ねることが大事だと思っています。業界の課題として経営者の年齢層が高く、時代の流れをとらえられていなかったり、昔の悪しき習慣や文化を変えられていないケースが多々ありますが、それでは今の若い人はついてきてくれません。
プライベートと両立をしたいZ世代も増えているわけですから、働き方改革を着実に進め、時代にあった仕組みづくりが必須だと講演でも訴え続けています。

社会福祉法人風の森
野上美希
東北大工学部卒業後、大手シンクタンクにて、コンサルティング、採用、営業を経験した後、人材紹介会社にて事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメントする傍ら、女性のための人材紹介サービスの代表も務める。自身の妊娠を機に幼稚園の運営に携わる。
成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、6つの認可保育園を開設。直近では病児保育、児童発達支援、一時保育の複合子育て支援棟を建てインクルーシブ保育の実現を行う。
また、キャリアカウンセラー資格を活かし、独自の採用手法により、国基準の 2 倍以上の保育士確保を実現。採用難の業界の中、中途採用倍率14倍の厳選採用を実現。現在、業界に先駆けて保育者の働き方改革を実践し多くのメディアに取り上げられている。
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