ウーマンエンパワー協会では、さまざまな企業の取り組みを取材しています。
今回は、サラヤ(株)でご自身も40代でパート入社され、取締役 総務人事本部本部長(取材当時)の村井雅子氏にお話を伺いました。
<企業概要>サラヤ株式会社(大阪府大阪市)
設立:1959年
従業員数:1875人(女性社員比率51.8%、女性管理職比率13.3%)23年10月時点
事業内容:家庭用及び業務用洗浄剤・消毒剤・うがい薬等の衛生用品と薬液供給機器等の開発・製造・販売、食品衛生・環境衛生のコンサルティング、食品等の開発・製造・販売
Q. ホームページにも就業環境や人材活用、幅広いSDGs活動について充実した取り組みが掲載されていますが、これまでの変遷について教えてください。
少子高齢化による人材獲得難時代となっていくなか、弊社もダイバーシティ推進に取り組まなければということで、2010年にダイバーシティ推進室が立ち上がりました。子どもたちが労働人口に加わるにも何十年もかかるわけですから、まずは優先順位の高い女性活躍推進から始めて「育児と仕事の両立支援」などの様々な環境整備に取り組んできました。
当初は研修に参加していたのですが、私自身も子ども2人を育てながら長く専業主婦をしていて、40代でパートで入社し、2年後に正社員になったんですね。当時の私も「女性も管理職になっていいんだ」という感覚でいましたので、研修を受けてもピンとこない状況で、その後ダイバーシティ推進室に加わり研修を運営する立場になった際には、「先ず女性の意識改革から取り組まねば」と思いを強くしました。
ただ、当時は女性社員からも「女性に特化するのは逆差別ではないか」という声が出てしまうこともあり、先ずは自分に自信を持って貰うための【①能力開発】、管理職を目指すための【②意識改革】、何より女性活躍推進は一部の女性だけのものではなく、会社全体で推進していくための【③風土づくり】の3本柱で取り組みました。
現在約52%の社員が女性、管理職比率は13%近くですが、上級管理職にも女性が増えるようギアをあげているところです。おかげさまで例年、新卒採用については多くの女性から応募をいただいています。
Q. 能力開発やキャリア支援では具体的にどんなことをされたんでしょうか?
【役員メンター制度】をつくり、役員1名に3名のグループ分けをして講義や研修を実施してもらいました。普段関わりが少ない社員もしっかり顔と名前を覚えてもらえますし、役員それぞれの得意分野を指導してもらうというのは経営視点の学びに繋がりました。
ロールモデルが社内にいないなら社外と【異業種交流】しようということで、女性活躍推進に取り組んでいる他社をご紹介いただき、工場見学や女性管理職との座談会もやりました。直接お話することで「やっぱりみんな悩んでるんだ。でも続けることが大事なんだ」という共有もできましたね。
管理職や管理職を目指す層への【女性リーダー研修】や、自身のキャリアを早期に考える【キャリアプラン研修】を実施する際には、独身社員に対しては、一生働き続けたいならどういう人生を歩みたいのか?など、仕事とプライベートの両立のポイントなども話すようにしていました。自分の人生は自分でしっかり考えましょうということですね。
営業職はお客様の対応があって両立が難しいという声もあります。そのような社員たちには、「結婚・出産前に成果を残し、復帰した際にも仕事を任せてもらえるようになっておきなさい」と伝えています。
女性部下を持つ上長向けに実施した「多様性マネジメント研修」も好評でした。
自分の中にある無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)に気づいてもらうという趣旨です。例えば育児での短時間勤務社員に対し「無理させちゃいけない」という優しい配慮のつもりが、本当にそれは本人が望んでいることなのか確認できていなく、実はもっともっとバリバリやりたい部下もいるかもしれない、ということです。
逆に女性自身も自分で自分の枠を決めつけてしまう人もいるので、そこは教育がさらに必要でしょう。コロナ禍の数年間は積極的な研修ができずにいましたが、外部主催の異業種交流研修では、できるだけ幹部候補の女性社員に参加させるなどして学ぶ場を提供してきました。

Q. 働き方や文化の醸成はどんなことをされているんでしょうか?
性差に関わらず子育ての時間を確保してあげるには、社会全体でサポートしていく必要があります。
弊社でも、法令を上回る両立支援制度やワークライフバランス休暇制度(有休以外に目的設定のある休暇を年12日)を整えています。
また、企業内保育園を設置したことで、会社が本気で取り組もうとする姿勢を理解いただけたと思います。
社内向けのポータルサイトでは、女性活躍推進についての活動紹介や無料セミナーなどを掲載してきました。社長を皮切りに、リレー形式で男性管理職に「あなたが考える女性活躍とは?」という同じテーマのコメントをいただきました。全社員に配信することで、実行しなければと思って貰えますから。(笑)
また、実行している施策が本当に正しいのか不安になることもあるので、認定制度や表彰も積極的に取りに行きました。受賞させていただくことが増えることは自信に繋がりますし、社員が会社に誇りをもってもらえたらという思いもあります。
大阪サクヤヒメ賞では3人の子育てをしている研究職社員が大賞をいただいたのですが、彼女は肩肘はらず自然体で、母親のように外国人部下の育成も頑張っている姿が印象的でした。上級管理職として新しいリーダー像のロールモデルとなってくれています。
私自身も外部の様々な場所に出向くようになりましたが、管理職になると出ていく場所、出会える人の景色が変わりすごく刺激になります。後輩たちにこういった景色も見せてあげたい。
ロールモデルが増えるにつれ、管理職を目指すことはもう当たり前になります。
これからは、ただ管理職になるのではなく、上級管理職(部長職以上)層をもっとつくっていきたいですね。
女性が働きやすい職場づくりは、いずれ介護を迎える人への環境整備と同じです。未婚男性も増えていて親の介護が働き盛りの男性の負担となってくるこの時代に、介護離職せず両立できる優しい職場づくりに繋がると思っています。

Q. 1社でなく社会全体で取り組むべき課題としてはまだまだやることはありますね。
そうですね。企業トップの方にお会いする際に、機会があれば女性管理職や役員割合を話題にすることもあります。トップだからこそ英断ができることがあるんですから。
それだって私がいま、取締役という肩書があるからお話を聞いていただけるわけで、これが1社員や主婦では耳を貸してもらえません。だからこそ、役職をうまく利用して周りの方にいい影響が波及できたらと思っています。
私は孫が3人いますが、家庭で何もしなかった息子たちがしっかりと子育てをしていることに驚きました。
男性も子育て参加が当たり前になっているし、教えていなくても頑張っています。誰でもやればできるんです。(笑)
Q. 進みが遅いと言われる日本のダイバーシティ推進に必要なポイントは何だと思われますか?
「相手のことを理解しようとすること」じゃないでしょうか?
年齢を重ねると自分の価値観が正になりやすい。異なった価値観も自分と違うだけでダメなわけではない。相手の立場や状況を理解しようとする姿勢や、皆が相手に対し寛容になると少しは前進する気がします。
Q. 働く女性側に伝えたいことはありますか?
いつから、何歳からでも人生は変えられます。
自分がどういう人生を生きたいのか、なりたい自分をしっかり考えてください。
自分の人生は自分で決め、幸せは自分でつかまないと。
本気で頑張っていたら周囲がきっと助けてくれます。
リーダー像やリーダーの在り方も決めつけないでほしい。
皆さんリーダーと言うと力強いタイプを想像しがちですが、部下にそっと寄り添って背中を押すリーダーがいたっていい。女性には女性ならではのリーダー像があっていいんです。
私も育児をしながら、日々の家事で学んだ段取り力や、多様な地域の人との交流で得たコミュニケーション力などが仕事に大変役立っています。無駄になったことは1つもありません。子どもだって兄弟でも1人1人全く性格が違い、親なら良いところをどう伸ばすか考えるでしょう?部下の育成も同じです。その人の良いところに目を向けて、活躍して欲しいと思って成長を見守る。そういう女性リーダーを増やしていきたいですね。

村井雅子
2002年 東京サラヤ株式会社に入社。
2017年 サラヤ株式会社に転籍。女性活躍推進施策、女性管理職の倍増、当時目標の20名増を達成
2019年 取締役総務人事本部本部長に昇進。ダイバーシティ&インクルージョンを推進。
女性活躍推進や健康経営の指標となる健康経営優良法人について2019年度から5年連続認定。
2022年 サラヤグループの創立70周年プロジェクトの責任者となる。
2023年 第1回活躍する女性リーダー表彰(ブルーローズ賞)受賞。
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