ウーマンエンパワー協会では、さまざまな企業の取り組みを取材しています。
今回は、高知県で私立の保育園・幼稚園を運営する学校法人やまもも学園の佐竹理事長にお話を伺いました。
<企業概要>学校法人やまもも学園(高知県高知市)
社員数: 151名(男性10.2%、女性)89.8%)
売上高: 551百万円(令和6年3月期)
事業内容: 幼保連携型認定こども園(桜井幼稚園・芸術学園幼稚園)、小規模保育施設(さくらんぼ園)、企業主導型保育事業所(さくら保育園)、地域子育て支援センター(さくらんぼの森・ママン)の運営
Q. やまもも学園さんの歴史と教育方針はどのようなものなのでしょうか?
もともと私はTV局にいたころから教育に関心があり、結婚後、主人の父が2つの園を引き取って30年ほど運営していた学校法人を、コロナ禍に私が引き継ぐことになりました。
弊園のミッションは「子どもをまん中に、生きる力をチームで育てる」です。
社会が激変している中、若者世代の自己肯定感や幸福度、社会への希望等が諸外国と比べて相対的に低い現状が取り沙汰されています。これは日本の教育が明治以降150年間ほぼ変わっていないことが最大の要因だと私は考えています。
そこで、弊園では、今、子ども家庭庁が進めている「子どもまん中」政策の実践版として、2022年から特色ある教育(イエナプラン教育)を取り入れました。
幼いころからお互いを尊重して、社会の一員として自分は何が好きで何が得意なのかを周りの助けを借りながら見出してもらいたいと思っています。新たな教育を取り入れた事で、賛同してくれる中途採用の職員も増えてきました。

Q. イエナプラン教育とはどういうものなんでしょうか?
ドイツ発のオランダで広まっている教育で、一人ひとりを尊重しながら「自律と共生」を学ぶオープンモデルの教育です。日本はどうしても単一民族だけに、みんなと違うと怖いとか、それがいじめにつながりやすいとか同調圧力が強い傾向が見られますが、幼いころからあなたはあなた、お互い違っていて当たり前、ということをあたりまえに感じてもらいたいと思っています。
イエナプラン教育では、「子どもも大人も、一人ひとりがかけがえのない価値を持っている存在」と掲げています。
自分は何が好きで何に向いているかは、周りが経験や価値観を押し付けて決める事ではないし、学歴を不用とする企業も増えている中で、絵でも音楽でもスポーツでもいい。自分が社会のなかで何を成し遂げていきたいのか、何をすると周りが幸せになれるのか、それに自分が気付き自分の成長につながるよう周りがサポートすることが大事。周囲に愛されている、周りの助けになりたい、という気持ちを育むことが大切だと思っています。

Q. 日本の人材育成を担う「人」が大事な事業だと思いますが、どのような採用や取り組みをされていますでしょうか?
グループ企業である学校法人龍馬学園(専門学校)の学生を優先的に採用する他、大学や短大、他の専門学校からも新規採用を行っています。また求人サイト、職員からの紹介による中途採用も行っています。イエナプラン教育に賛同して高知に移住して一緒に働いてくださる方などもいて多くのご縁が増えていますね。
弊園の保育・幼稚園は、朝7時から夜7時までで、日曜・祝日も保育を行っている施設もあるため、以前は有給などの申告を遠慮する職員が多かったようです。
国の働き方改革導入もあり、本人や家族の誕生日、お子さんの参観日や行事の際に有給や振休を取る職員が多くなりました。また体調管理も優先し、体調が悪い場合は必ず病院で検査を行い、自己判断で出勤しないようにしています。
家族を大事にしてほしいし休暇をとってはもらいたいのですが、やはり現実的に人が足りないのも事実です。
そのため休暇の時は、園長など管理職も現場のサポートに入りますね。
今、何より教職員の給与がもっと上がる事が一番の望みです。というのは、私立の保育・幼稚園段階は7、8割が国の補助金でまかなわれていて、今年度も10%の賃金UPをしたのですが、幼・小・中学校の公務員と比べると、日本の私立の保育幼稚園業界の待遇はまだまだ低い現状があります。
教職員の成長支援の実績としてはオランダ在住のイエナプラン教育の第一人者であるリヒテルズ直子さんから全教職員がオンライン研修を受け、2024年には保育・幼稚園段階では全国で初めて、イエナプランスクールに認定されました。イエナプランは日本の私立小や公立小でも取り入れられていて、弊園でも教職員の保育の指針になり、より良い教育を実施することができています。
また今まで、対面研修が多かった保育・幼稚園現場もオンライン研修が増え、教職員がリモートでの研修に対して抵抗感がなくなり、さまざまな形でのスキルアップを目指せるようになったことは喜ばしいことです。今後も今の時代に合った働き方が出来るよう日々運営していきます。


Q. 男性も積極採用されて男性育休も取得されているということですが。
今後も男性は、積極的に採用していきたいですし、数か月の育休を取得した男性もいます。ただ、現状は人手不足で、育休を取得すると周りに影響が出はじめました。
実際、社会福祉士や介護福祉士等の方が待遇が良いので、幼稚園教諭や保育士の道に進む男性を増やすためには、根本的に国が待遇を上げる施策をしてほしいですね。
日本版DBS(子どもと関わる仕事を行う人に対して、性犯罪歴の有無を確認する制度)の導入によって、従来は乳児のおむつ変えなどを男性保育士に担当させるのはNGだと言う保護者も多かったのですが、社会の意識も変わってきたと感じます。人出不足の中、看護の分野では外国人の登用が増えましたが、幼稚園教諭や保育士として外国人が働くのはとてもハードルが高いんです。多様化やインクルーシブなどが叫ばれる中、多文化共生社会の実現として、国がハードルを下げてくれる事を望んでいます。
Q. 働き方に課題の多かった教育業界でどのような体制づくりを目指されるのでしょうか?
時代にあった新たな教育を導入し、教職員の世代間のギャップの是正は必須です。また女性が多い職場だからこそ、逆に男性に不利益にならないような働き方の改善(男性育休取得100%)。そして、女性・男性に限らず、得意分野を伸ばしていく環境の整備を進めてきました。ベースには大人も子どもも誰もが尊厳され、同じ目線で対話をし、自律を目指す学園として成長していきたいという理念があります。
ちなみに高知県は共働きが多いものの、女性は管理職となると自信がないなんて人も多いです。でも意外と最後は女性の方が責任をちゃんと取れるまっすぐな人が多いですよ。
また新たなチャレンジとしては、園児が小中学校に上がってからも『自分で考え行動出来る子どもたちを育てる』ために、小中一貫義務教育学校でインターナショナルスクールを設立するため、邁進しているところです。
これからの時代、本当の意味で「尊重と自律」を軸とした組織を作ることが、企業・法人の成長・発展を促す第一歩なのではないでしょうか。未来の子どもたちのため、未来の日本のために、私どもは新たな教育を全国に広げていきたいと考えています。



やまもも学園
理事長 佐竹真紀
青山学院大学法学部を卒業後、地元高知の放送局(株式会社テレビ高知)にアナウンサーとして入社。
結婚後は夫とともに、専門学校や認定子ども園、関連会社の経営に携わっている。
一男一女と愛犬。
人生の師匠は夫の両親。
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