一般社団法人ウーマンエンパワー協会

DX化で業務3万時間を1万時間にし年4000万コストカット/松本興産株式会社

約6分

ウーマンエンパワー協会では、さまざまな企業の取り組みを取材しています。

今回は、DXによる変革を実現し、男性育休100%も実現している埼玉県の部品メーカー・松本興産(株) 松本めぐみ取締役にお話を伺いました。

<企業概要>松本興産(株)(埼玉県秩父郡)

社員数: 184名(男性52%、女性48%) パートアルバイト含む

売上高: 32億円(令和7年現在)

事業内容:金属切削加工を専門とする製造。

※自動車部品関連を主に、電子機器、医療機器、空気圧機器など多岐にわたる産業向けに、

複雑形状かつ高精度な部品を提供。金型を用いず、バー材からの一貫加工により、低コスト・短納期での生産を実現

Q. 御社では、製造現場も含め多様な職種の方々が活躍されていると伺いました。採用にあたって、大切にされている基準や考え方について教えていただけますか?

弊社は細かい金属の切削技術に強みがあり、工場での目視検査には多くの女性パートスタッフが活躍しています。
以前は、学歴や職歴、専門知識など“目に見えるスキル”を重視して採用をしていましたが、それだけでは職場に馴染めず、力を発揮しきれないケースもありました。
今は、経験や知識よりも“その人の内側”を大切にしています。多様性を尊重し、個性や価値観、協調性や表現力など、人としての在り方を重視する採用へとシフトしています。
また、PCM性格診断を導入していまして、自社に合うパーソナリティが明確になっているので、組織に合った方を採用しています。

Q. 働き方や休み方という点ではどういう仕組みになっていますか?

工場では90台の機械を50人以上で見ているのですが、製造部は3つのシフト制になっています。休みたい人は事前に申請して全く運営に支障はありません。
社員も6~7年前は残業の好きな上司がいて部下が帰りづらいなんてこともありましたが、最近はなくなりました。また以前は出社して保管している紙書類を確認したり、打合せをしなければなりませんでしたが、クラウド化したことで情報閲覧や打合せはオンラインでできるようになりました。在宅勤務か出社するか個人の選択に任せていますし、リモート化によるデメリットは感じていないです。
有給取得率は以前の63%から76%になっていて、特にこちらから強く働きかけなくても皆さん休みは申請してくれています。職長に働き方の教育をいれることで、有休を取得しやすい環境づくりを意識して、男性にも積極的に育休取得を呼び掛けています。最近は3名の男性が数週間育休を取得したので、対象100%が取得となっています。
年間休日を年々増やし2025年度は 127日、来年度は130日を目指しています。

Q. DX化を進めて大幅な業務効率化とコスト削減をされたとのことですがどのように進めたのでしょうか?

まずは経営戦略の3本柱に「パーパス」「数値戦略」「会計思考」を置き、社員のDXマインド醸成を後押ししました。
DXを進める上で欠かせないのが、一人ひとりの経営意識マインドと会計思考です。貸借対照表を「ブタの貯金箱」に、損益計算書を「風船」に見立て、誰もが直感的に理解できる「風船会計」という数字の可視化をしました。

材料費や外注費など変動費の数字を透明化しないと、何をどう改善してよいかもわからないし、管理職の号令に説得力がないと思っています。
そうした教育の上で、月400万個に及ぶ製品の目視検査業務のデジタル化から手をつけました。従来は紙に検査結果を記録し、そのデータを手作業で入力するという手間がかかっていたため、現場の社員と一緒にゼロからアプリを開発して、タブレットで検査結果を直接入力できるようにしました。
アプリを自分でつくれるように専門家を家庭教師のようにつけてスキルの支援をしました。
結果的に約3万時間に及んでいた業務時間が、1万時間以下に短縮されました。
検査アプリでは1500万円のコスト削減となり、トータルでは年間4000万円のコストカットが実現できました。

Q. 途中でDX化が頓挫したり、失敗するケースも多いようですが、どうやって進めたんでしょうか?

まずDXを進める上で大切なのは、“火種”となる人を見極めて、そっと着火するようにチームを組むことです。
落ち着いていて、コツコツと物事を進めるのが得意な人。目立つタイプではなくても、真面目に取り組み、周囲への影響力をじわじわと広げてくれるような存在が初期にはとても向いています。逆に、最初から強い主張を持つ人は、想いが強いあまり周囲とのズレが生まれやすいこともあるので、あえて少しあとから参加してもらうようにしています。
火種チームの動きに共感が広がってきたタイミングで、声の大きいリーダー層が加わることで、一気に組織全体に火が広がっていく——そんな流れを大切にしています。

Q. 工場の方だとあまり自分からPRするタイプでない方も多い印象なのですが評価はどのようにされているのでしょうか?

「風船賞与」という、通常の評価とは別の“プラスα”の賞与制度を設けています。
社員一人ひとりが実施した改善について、紙で提出できるようにしていて、内容に対しては社長や役員が直接面談しながら耳を傾ける時間をとるようにしています。
社内で目立つ人だけでなく、普段は控えめな方や埋もれがちな方にも、ぜひ自分の声や行動で意思を示してもらえたらと願っています。
誰にでもチャンスが開かれている仕組みだからこそ、「ちゃんと見てるよ、聞いてるよ」というメッセージを、制度を通して届けていきたいと思っています。

Q. 数年のDX化で色々な良い効果があったようですが、職場環境づくりで感じていることについてメッセージをお願いします。

DX化で業務が圧縮され、生まれた時間で社内教育を進めることで、さらに効率化が進むという良い循環ができたと感じています。その結果、家庭を持つ方々が、より安心して働ける環境が少しずつ整ってきました。
雇う側と雇われる側という関係性はあっても、まず最初に信じるのは会社の側。
「この人はきっとできる」「成長していける」と信じて関わることが、すべての出発点だと思っています。今はまだ経験が浅くても、時間をかけて育てていけば必ず花が咲く——その可能性を信じる姿勢が、教育であり信頼です。
働き方は、人それぞれの性格や価値観に合ったものであるべきです。社員の心が満たされていない状態では、本当の意味での業務改善や成長は生まれません。
「会社のため」ではなく、「自分の表現を大切にすること」が、結果として組織の力になる。私はそう信じています。
だからこそ、数字目標としての女性管理職比率ではなく、「お金のことを語れる力」「経営の視点」「生活とのバランス」など、個々の力と誠実に向き合える環境をつくることが何より大切だと感じています。
性別にかかわらず、自分らしく表現しながら生きる時代が来た今、
1日8時間過ごす職場こそ、人生を豊かにする場所であってほしい。
その可能性は、規模や場所に関係なく、どんな会社にもきっとあると信じています。

松本めぐみ
松本興産株式会社 取締役

北九州高専卒業後、米半導体企業を経て2010年にスイスへ留学しMBAを取得。2015年に松本興産株式会社取締役就任。経営を通して多くの壁に直面する中、「会計」を社内の共通言語とする「風船会計®メソッド」を考案し2023年に特許取得。行政や一部上場企業から中小企業まで幅広く利益を生み出す講演・研修を行っている。Forbes JAPAN WOMEN AWARD、令和6年度埼玉県荻野吟子賞奨励賞を受賞。3児の母。



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