ウーマンエンパワー協会では、さまざまな企業の取り組みを取材しています。
今回は、エスエス製薬株式会社のEVEアシスタントブランドマネージャー・平川氏と人事の大巻氏にお話を伺いました。
<企業概要>エスエス製薬(株)(東京都新宿区)
創 業:1765年(設立1927年)
社員数: 373名(管理職比率 男性46%、女性44.6% ※工場を除くと女性63.1%)
※2025年5月末時点
事業内容:OTC医薬品やヘルスケア製品に特化した製薬会社
Q. 外資のイメージとして以前からジェンダーギャップの特にない多様な採用基準なのかと思っていましたが、実はこの数年で変化が大きくなったのですね。
製薬業界は、市場が国内に向くことも多く、ともすると保守的な傾向が見られ、弊社も260年の歴史がありますが、これまでは男性が多くを占める職場環境が続いてきました。採用基準では、業務に必要な体力や経験値として、長時間労働への対応力や、製薬業界での実務経験を重視されてきた側面がありました。
そこに3年ほど前、当社が一つのビジネスユニットとしてサノフィグループから分離を開始し、ドラッグストア等で処方箋なく一般消費者に届けるプロダクト(OTC医薬品)に特化して分社化を進めました。
一般向けに消費者のターゲットを絞ったことにより、「どんな社員がいればビジネスを成功に導くことができるのか?どのようなChallenger Mindsetが必要なのか」を改めて社内で定義し、ジェンダーのみならず、国籍・文化・背景を超えた多様な力でビジネスを強化するべく、国をまたいだ人材登用・交流を促進しています。
3年ほど前の当時、インド国籍のGMが着任して、強い信念と論理・数字でドラスティックに進めたことで変化が加速しましたね。
Q. 従来の長時間労働、年功序列を取ったスタイルから御社が大きく変化するにあたっては色んな声や壁があったのではないでしょうか?
男性側から「英語がしゃべれないとだめなのか?」「女性や外部からきた人材でないとだめなのか?」という不満の声は正直あがりました。
ですが、ジョブ型雇用に変化したなかで、年齢性別を問わず、”職務内容と”職責”に準じた評価が日本のみならず、グローバルで標準化されました。その仕事で結果を出すために必要なスキルの人を選択した結果であるという点はきちんと伝えています。
中途採用社員も3割を超えてきているためか、自律的にキャリアパスにチャレンジする社員も増えて、既存の社員に対しても好影響を及ぼしています。
Q. 働き方・休み方などはどのような形になったんでしょうか?
コロナ渦を迎えるまでは他社同様に、在宅で仕事ができるとは誰も思っていませんでしたがコロナをきっかけにフルリモートになり、その後も在宅勤務はつい最近2025年5月頃まで活用していました。やはり対面で交流して生まれる会話やイノベーション・文化醸成などを鑑みて今は週3出社のハイブリッド勤務となっています。1日4時間でもいいからとプライベートライフとのバランスに配慮した柔軟な週3日出社ではあります。。
これまで多くの企業(スタートアップ企業は除きますが)では、画一的な人材登用が目立ち、人事制度も男性が中心となるような設計がされてきました。これは、組織全体が特定のジェンダーの視点に偏っていたことを示しているかもしれません。
当社営業部門においても、以前は結婚や出産をきっかけに、女性社員が仕事から離れることが自然と受け止められていた時期がありました。
それが社内の新しい波を受けてか、創業260年間で”初めて”、この2025年4月に営業部門では、育休取得後に女性社員が復職しました。
当社の営業部門は9割以上が男性ですが、女性だからといって特別扱いはしないものの、本人の希望を聞いた上で安定したお得意様の担当につける、子育てが落ち着いてからチャレンジを増やすなどは考慮しています。
Q. 具体的にはどんな施策を導入したんでしょうか?
2024年から、目標を掲げて生きる女性が本来の力を発揮し、前へと進み続けられる未来に向けて「BeliEVE PROJECT」を発足しました。対話型×生成型AIツール 「BeliEVE Your voice AI」などを活用しながら、頭痛や生理痛などの女性たちの身体の痛みだけでなく、女性たちが抱える見えない悩みやモヤモヤに対するアプローチを開始しました。
この「BeliEVE PROJECT」の活動と連携し、新しい社内制度を導入開始しました。
制度があっても活用しにくい、後ろめたさがある、状況では女性たちが本来の力を発揮できる環境として十分ではないと考え、本当の意味で活用できる制度を導入しました。
業務分野が異なりつつも、子育てをしながら働いている点が共通する、当事者である社員ボランティアとEVEチームで考案・運営などをリードしています。「BeliEVE PROJECT」発足によって、社員主体での会社を変えていく取り組みが行われるようになりつつあります。

【エスエス製薬の取り組み】
■育休取得した社員のチームメンバーに対する手当
育児休業取得者が所属するチームのメンバーに対し、手当を支給します。チーム規模や育休 取得期間に応じて、最大10万円が支給されます。チームメンバーが育児休業取得を喜んでサポートできる環境を整備することで、育休を取得することによって後ろめたさを感じる気持ちが軽減され、育児と仕事を両立しながら安心して仕事を続けることができます。
■独自のキャリア支援メンタリングプログラム
女性が「ロールモデル」とつながり、キャリア展望を思い描く機会を作れるよう、メンタリ ングの知見を持つ株式会社Mentor For監修のもと開発した独自のメンタリングプログラム 「BeliEVE Mentoring Program」を実施。初年度は、メンティーのコアターゲットを社会人10年目前後までの女性に据え、彼女らが抱えやすい課題をテーマにした計6回のセッ ションと、悩みにフィットした女性社員をメンターとしてアサインすることで、「BeliEVE Project」で明らかになった”10年目の壁”の解決に取り組んでいます。
また、メンターを初めて務める方でも自信をもって遂行できるよう、事前にメンター向け研修も実施しています。毎回テーマやゴールを設定するのでメンティーと何を話していいかわからない、とならないサポート体制を整えています。
■ワーキングママ向け「ライフアドバイスクラブ」
自身の経験を共有し合うことで、仕事の効率とモチベーションを高められるよう、子育て中 の従業員同士のコミュニティを立ち上げました。定期的なオフラインの集まりを実施することで、社内で同じような状況にある仲間とつながり、お互いをサポートできる体制を整えます。
■ベビーシッターサービスクーポン
政府による補助制度を活用し、ベビーシッターサービスの支払いに充てられるクーポンを配布。0歳から9歳の子供を育てる従業員は、1時間あたり2,200円、月間最大20時間の補助を受けることができます。
■家事代行サービス手当
掃除や料理などを含む家事代行サービスの利用をする従業員は、毎月1万円分のサポートを 受けられるようになります。試験導入を経て、子育て中の方に限らず、すべての従業員に向けて展開予定です。


Q. 女性活躍推進、ダイバーシティ推進という文脈で大切なポイントは何だと感じてらっしゃいますか?
人は元来新しいことに挑戦するには恐怖が伴い、習慣に基づいて日々過ごしています。
上から意図的にシステムを変え、数字を持たせてドラスティックにやらないと変わりません。
弊社も外国籍のGMとともに日本の当たり前と、他国ができていてどうして日本はできないのか?データと論理でしっかりディスカッションしたことや、人材の新陳代謝を高めたことで劇的に変わりました。
女性ありきではなく、事業で結果を出すために必要なスキルと優秀な人材を登用したら結果的に大幅に女性管理職比率もあがったという事実が今、目の前にあると捉えています。
やっかみやプレッシャーに負けないことも大事ですし、周囲の何気ない悪影響な言動も放置せず、人事としては細やかに対話しています。
子育て・介護中の社員の配置やキャリア支援は、本人の希望を聞きながら私生活と仕事のバランスがとれるよう配慮しています。今後は東京本社だけでなく全社員の3割を占める工場も、多様性を促進していきたいと考えています。

大巻 愛
エスエス製薬株式会社
人事部長
アメリカの大学卒業後、自動車メーカー、エネルギー業界、内資・外資系など多岐に渡る人事経験を経て2024年にエスエス製薬に入社。
成長著しいOTCメーカーであるOpellaグループの一員として、人的資本を用いた人事戦略とビジネスへのアジャイルな貢献を推進中。
プライベートでは二人の娘を持つ母として、仕事と子育ての両立はもとより“フルキャリア”に取り組む。

平川 梨絵
エスエス製薬株式会社
EVEアシスタントブランドマネージャー
慶応義塾大学卒業後、化粧品メーカーなどでの経験を経て2019年にエスエス製薬に入社。
解熱鎮痛薬ブランドEVEの戦略立案及びBeliEVE Project推進を担当。
プライベートでは1児の母として、日々仕事子育てに奮闘中。